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「ちょっ、食べるから待ってろって!」
部屋の向こう側から、守政の怒鳴りつけるような声が聞こえ、洋一は、慌てて着替えてバッグとスマホを掴むと、自室を飛び出して階段を駆け下りた。
すると、ダイニングテーブルに置かれたフレンチトーストとハムエッグの近くに、可愛らしいイチゴの模様が入った巾着袋が、自分の存在を主張するかのように置かれていた。
「あ、兼城。その中身が入ったイチゴ柄の巾着袋を持ってけよ」
守政が、ダイニングの椅子に座ってリンゴジュースを一口飲み、洋一を見て言う。
「はぁ?こんな、女子達が好き好んで持ってそうなコレをか?」
洋一は嫌な顔をして、その巾着袋を指差して言うと、彼はコクコクと頷いた。
「あぁ。
英雪さんから聞いたんだけどさ。アンタ、昼休みは、大勢の女達に追っ掛けられてんだろ?
しかも、挙げ句の果てには「手作り弁当を食べて欲しい」って、強引に渡されそうになって、それを躱してまくって逃げてんだってな」
「あ、あぁ……」
──そんな俺の大学の日常のことを知ってるって、石見さん、あなたホントに何者なんですか!?
洋一が、少し狼狽えながら頭を掻いて頷くと、守政は椅子の背もたれに寄り掛かり、半ば踏ん反り返った状態で言い出した。
「と、言うことで、英雪さんが俺に特別依頼を出してきたんだ。
これからは、俺はこの依頼を果たす為に、アンタの弁当を作ってやる」
「(いらねぇよ!イチゴ柄の巾着袋付きで、男が作る弁当は!)」
洋一は、また嫌な顔をして彼を見つめ、心中でボソボソと呟く。
すると、さっきまで踏ん反り返っていた守政がふいっとそっぽを向き、洋一に目を合わせずに言葉を続けた。
「つまり……、アレだ。感謝するんなら、英雪さんにしろ。
別に……、アンタが喜ぶ顔が見たくて、作ったワケじゃねぇんだからよ……」
「(……え?)」
この後半の予想外の一言に、洋一は少しドキッと胸を鳴らし、イチゴ柄の巾着袋を見つめた。
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