動き出す『者』と、“浮上《あ》”がり出した『モノ』

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  「(まさか、相模さん、俺の笑顔が見たいだけに作ってくれたのか?  お前、案外、可愛らしい一面あるじゃんか)」  洋一は、くすりと小さく微笑んで、その弁当が入れられている巾着袋をバッグの中に詰め込み、彼とは向かい側の椅子に座って彼の顔を見つめた。 「相模さん、ありがとな」 「お、おぅ。弁当は、ちゃんと残さずに食えよな」 「それくらい分かってるって」  照れているのか、少しだけ、腕組みをしている相模の頬が紅く染まっている。 「(ここでツンデレ発揮とか、お前、可愛いすぎだろ!)」  洋一は、顔を真っ赤にして心中悶えながら、それを隠すように微笑んで座り直すと、両手を合わせて声を出した。 「んじゃ、いただきます」 「ん。それを残したら、一発腹をぶん殴るから覚悟しとけ」 「(それは勘弁してくれ)」  半ば脅迫めいた台詞に、洋一は若干冷や汗を浮かべながら、早速フォークを使ってハムエッグを食べ始めた。  そのハムエッグの黄身は、絶妙なとろみの半熟加減で、ハムはパリッとしていてとても香ばしく、塩と胡椒が良いバランスで味付けされてある。  それは、ランクの高いホテルで出されても良いくらいで、一口食べただけで、洋一の心と腹を幸せに満たしてくれる。 「ホントに美味いな。相模さんが作る料理は」 「まぁ、今のように人気が出て売れる前までは、アルバイトをして得た金で遣り繰りすんのに、外食なんてあんま出来ねぇからさ。  少ない金と食材で、どれだけ美味く出来るか追求したんだ。暇潰し程度によ」  守政が誇らしげに笑って、リンゴジュースを飲みながら頷くと、洋一は、黒いマグカップに注がれたリンゴジュースを一口飲んで言った。 「へぇー。結構努力してんだな、お前」 「これは努力って言うより、成り行きみたいなもんだ。  アンタも、色々と追求し始めたら出来んじゃね?」  そんな洋一の感嘆に、守政が、ニカリと白く鋭い牙のような犬歯を見せて笑い、テレビのニュースを眺めながら、フレンチトーストを食べて言う。  
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