58人が本棚に入れています
本棚に追加
「(まさか、相模さん、俺の笑顔が見たいだけに作ってくれたのか?
お前、案外、可愛らしい一面あるじゃんか)」
洋一は、くすりと小さく微笑んで、その弁当が入れられている巾着袋をバッグの中に詰め込み、彼とは向かい側の椅子に座って彼の顔を見つめた。
「相模さん、ありがとな」
「お、おぅ。弁当は、ちゃんと残さずに食えよな」
「それくらい分かってるって」
照れているのか、少しだけ、腕組みをしている相模の頬が紅く染まっている。
「(ここでツンデレ発揮とか、お前、可愛いすぎだろ!)」
洋一は、顔を真っ赤にして心中悶えながら、それを隠すように微笑んで座り直すと、両手を合わせて声を出した。
「んじゃ、いただきます」
「ん。それを残したら、一発腹をぶん殴るから覚悟しとけ」
「(それは勘弁してくれ)」
半ば脅迫めいた台詞に、洋一は若干冷や汗を浮かべながら、早速フォークを使ってハムエッグを食べ始めた。
そのハムエッグの黄身は、絶妙なとろみの半熟加減で、ハムはパリッとしていてとても香ばしく、塩と胡椒が良いバランスで味付けされてある。
それは、ランクの高いホテルで出されても良いくらいで、一口食べただけで、洋一の心と腹を幸せに満たしてくれる。
「ホントに美味いな。相模さんが作る料理は」
「まぁ、今のように人気が出て売れる前までは、アルバイトをして得た金で遣り繰りすんのに、外食なんてあんま出来ねぇからさ。
少ない金と食材で、どれだけ美味く出来るか追求したんだ。暇潰し程度によ」
守政が誇らしげに笑って、リンゴジュースを飲みながら頷くと、洋一は、黒いマグカップに注がれたリンゴジュースを一口飲んで言った。
「へぇー。結構努力してんだな、お前」
「これは努力って言うより、成り行きみたいなもんだ。
アンタも、色々と追求し始めたら出来んじゃね?」
そんな洋一の感嘆に、守政が、ニカリと白く鋭い牙のような犬歯を見せて笑い、テレビのニュースを眺めながら、フレンチトーストを食べて言う。
最初のコメントを投稿しよう!