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ウィッグを外して、顔を洗う。 排水口に吸い込まれるメイクが、名残惜しい。 出しっぱなしの水の流れを呆けながら見つめていると、後ろから、広野さんの腕が蛇口を占めた。 「水道代節約。」 煙草を咥えながら微笑む広野さんに、今度こそ、泣き出してしまった。 黙ったまま、ぼろぼろと涙を零す俺に、広野さんは何も言わず、相変わらず笑ってくれる。 灰皿に煙草を押し付けた広野さんは、ぐしゃぐしゃと俺の頭を撫でた。 「俺は、おかしい。」 「人間が人間を好きになるのはおかしいことじゃない。」 「男が男を好きになるのはおかしいだろう。」 「イチは匠くんが魅力的に見えたんだろう?なら、好きになったって仕方がない。」 相手に魅力を感じたなら、性別なんて関係なしに好きになっちまうもんなんだよ。 二本目の煙草を咥えて火をつけようとする広野さんに、タックルのように縋り付いた。 広野さんは、少し固まったのち、背中を撫でてくれた。
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