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「来たねえ、浅倉さん。」
にや、と笑って俺を見る彼の手には、ビールの注がれたジョッキが持たれていた。
最近隣に引っ越してきたこの男、真宮壱は見た目は高校を卒業したばかりなのに、俺と2つしか違わないっていうのだから。
真宮が教えてくれた、隠れ家のようなこの居酒屋は、酒ももちろん、とにかく出てくる料理が美味い。
それゆえか、かなり分かりづらい立地でも、客はそこそこ入っている。
昼間はカフェとして開店しているらしいこの店の店主が、真宮の友人なんだそうだ。
カウンターに座る真宮の横に腰掛ける。
「こんばんは。」
「いらっしゃい、匠くん。」
店主に声をかければ、独特な、なんとも人のよさそうな笑顔をむけてくれる。
注文をして、店主が去ったのを見てから、真宮の方へ顔をむけた。
「よお、久しぶり。」
「ふは、うん、昨日ぶりだねえ。」
くっくと喉をならせて笑う真宮は、どうやら既にほろ酔いらしい。
ほんのりと色づいた頬を緩めて微笑む彼は、ときたま、未成年かと見紛うくらいに幼い。
楽しそうにビールを喉に流し込む真宮の飲みっぷりは、見ていて実に気持ちいい。
それでいて、酒には強めらしいから、泥酔してるところなんて見たことがない。
この男といると、ついつい調子に乗って飲みすぎてしまうのだけれど、家が隣というのもあって、俺がどれだけ酔おうと、律儀に家まで送ってくれるのだ。
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