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堪らなくなり、炊事場から水を張った桶を持ってきた。
じゃが、手拭いが見当たらない。
仕方なく、私の身に着けていた手拭いを取り出した。
手拭いに水を付けることに躊躇いを覚えて、一度手のひらに手拭いを広げる。
右端に桃色の桜の花びらの刺繍がしてあるのを確かめた。
これは亡くなった母上様が私のためにひと針ひと針丁寧に入れてくれた刺繍。
これを渡されたのを最後に母上様は私の元からいなくなった。
今まで大切に肌身離さず身に付けていた。
じゃが、義宗様の姿は見るに耐えぬ。
「母上様、申し訳ありませぬ」
小さく呟き、私は手拭いに水を付ける。
固く絞ってから義宗様の汗を拭う。
額、顔、上布団を外し、腕、首周り。
丁寧に汗を拭い、また水を付けてから額にかぶせる。
よく見ると義宗様の髪は美しい金の色をしている。
櫛が通り易く、サラサラとしていた。
これでは髪を結うのが難しかろう。
私は当主になるから髪を結わないのだと思っていたが、これでは結うことができないのだ。
何度か、汗を拭うと呼吸が落ち着いてきた。
……そろそろよかろうか?
もう一度、手拭いを水に付けて絞り義宗様の額に置いてから床を出た。
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