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「桜の音色をもう少し聞いていたい、琴を弾いてくれぬか?」
「はい、喜んで」
その日は飽きるまでお琴を弾いた。
こんなにお琴を弾いていたのは初めてのことだった。
指が痛くなったが、義宗様が私を求めてくれることが嬉しかった。
季節が春から夏へと変わり、私と義宗様は少しずつ距離を縮めた。
このところ、毎日のように降る雨。
やはり誰かが泣いているようじゃ。
雨が降るときも変わらず、義宗様は夕餉の後に縁側でお酒を嗜まれる。
「いつもここでお酒を楽しまれるのですね?」
「ああ、ここが屋敷の中で一番落ち着くからな」
私はお酒を義宗様のお猪口に注ぎながら、雨の音を楽しむ。
普段から口数の少ない方。
穏やかで優しいけれど、ご自分のことはあまり口にされない方。
昼夜問わず床で寝込んでいることの多い方。
私のことは義宗様に話すのに、義宗様は私に何も語ろうとしない。
寂しくのあり、義宗様にとって私は至らないところがあるのではないか?と疑ってしまう。
私はこの方に好かれたい。
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