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「はい、今は亡き母上様から幼い頃に教えていただいたおまじないにございます。まず十まで数えて、それでも怖ければまた十数える。さすれば鳴神様は私の側には降りてこられないと」
「そうか、桜の母上は良い方なのだな」
「はい、今でもお慕いしております」
柔らかく笑い、義宗様は私の頭を撫でてくる。
少しくすぐったく思うが、嬉しくて胸の奥が温かくなった。
今宵はお義父様の誕生の祝いの日。
けれど、義宗様は宴の席には居られない。
宴は賑やかで、皆がお義父様の誕生を祝っている。
私は義宗様が気になって席を辞した。
「ここに、居られたのですか?」
私の思ったとおり義宗様はいつもの縁側で、お酒を嗜まれていた。
「……さくら、か?」
振り向いた義宗様の頬は赤く、瞳はとろけているようで私が映っているのか定かではない。
とっくりを見ると、いつもは一本をゆっくりと楽しまれればお止めになる。
じゃが今宵は五本も床に転がしてなお、六本目をお猪口に注いでいる。
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