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また一口お酒を呑まれる。
私は義宗様の話に口をはさめなかった。
義宗様を思えば、どこまでも胸が締め付けられる。
苦しい。
この方は今までどんな思いでお酒を呑まれていたのだろう。
「母上はわしにも父上にも近寄ろうとしなかった。それでもわしは幸せだった。東雲の為に生き、死んでいった父上を尊敬しておる。だから今日は呑ませてくれ、桜……」
義宗様が穏やかに諦めを浮かべ泣いていた。
「皆が宴で騒いでいるのを聞いて、一人でこの一年、東雲の神子として生きたのだと父上に語っておったのだ。父上の元へもうすぐ逝くと。だがな、桜。そなたが嫁いできてからたまに怖く思う。わしは一人で生き一人で死ぬのだと、神子として生きることに揺らぐものなどない。そう信じていたのに。死ぬことが怖い、もっとそなたと生きていたい、と思うようになっておる」
堪らなくなった。
義宗様を抱き締めていた。
ようやくわかった。
この雨は義宗様が降らせていたのじゃ。
悲しみが雨となり、泣いているのだと。
いつも何かを諦めたように笑う義宗様。
本当は泣きたかったのだと。
そう思うと義宗様が痛々しい。
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