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雨が降るーー。
音もなく、誰かが泣いているようにただ降り続けている。
鳴神がいるのか、ほんによう降る。
「嫌じゃ。いくら父上の命令でも聞けないものは聞きとうない!」
「桜様」
乳母であるお琴に言ったところでもう遅いのだろう。
分かってはいても言わずにはいれなかった。
「わかってください、桜様。もう祝言はそこまで来ております」
「父上は何故にそこまで東雲へ嫁げというのじゃ」
おそらくは泣きながらお琴に懇願したところで叶わぬものなのであろう。
「全ては日和の国のためでございます。東雲と和睦を結べば、この国もより平和になりまする。どうか、桜様。辛抱してくださいませ」
「嫌じゃ」とは言えなかった。
言えるわけがないのだ。この国の平和を願わない民はいないのだから。
明日、東雲より来た使者に嫁ぐ旨を伝え、日和の桜姫は東雲へと嫁いだ。
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