第一幕・桜【前編】

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「この国は、ほんによう雨が降りまするな」 「鳴神に愛されておるからであろう?桜」  私が東雲に嫁いで早いものでみつき。  生活には慣れたがまだこの方の面妖な姿に慣れない。  金の御髪に、空色の眼。  まるで、絵物語で聞いた鬼や妖怪みたい。  恐ろしい。  この方に触れられるのだと思うと恐ろしくて堪らなかった。  雨がシトシトと降ってる。  縁側で語らうのはいつものことなのに、人二人分の距離が私は安心した。  義父上様も義母上様も何も言わないのだからこれでいいのだろう。  想像していたよりも東雲に嫁ぐことは怖いことではなかったけど、この方が私は怖い。 「雨以外の音が聞こえない気がします」 「酒を持ってきてはくれないか?一献呑まぬか?桜」 「いえ、私は先に休ませていただきます。紅(クレ)を呼んで参ります」  夫婦とは思えない会話。  私は侍女の紅を呼びに縁側を離れた。  ほんにこの国はよう雨が降る。  誰かが泣いてるみたいに。  もしかしたら鳴神様が泣いてるのやもしれぬ。
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