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それから二月の刻が過ぎ、戦であの方は東雲から居なくなった。
さらに歳月は過ぎた。
嫁いだのは夏であったのに、もう雪の舞う如月じゃ。
この東雲は雨は多いが雪は少ない。
また一月が過ぎ、弥生が終わろうかという頃。
珍しく雪が大層深く積もった日のこと、あの方は私の元へと帰ってきた。
隣国との戦であったと聞くが、傷だらけの体が痛々しいものであった。
さらに二日後のことであった。
傷が癒えておらぬと言うに、あの方は桜を見に行こうと屋敷から私を連れ出した。
「何処へ行くのですか?」
「明日より三日祭だ、その前に桜を見に行こうと思おてな。そなたにも気に入って欲しい」
山の細い道を歩くこと、日が真南に差し掛かった頃にその場所にたどり着いた。
そこには湖があり、その真ん中には小さな島があった。
私は息をのむ。
小さな島には大きな桜が咲いていた。
ほんのりと染まる薄紅の枝垂れ桜ーー。
私は感覚の全てをその枝垂れ桜に奪われていた。
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