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「この忍塚(しのづか)山に咲く唯一の桜、東雲桜(しののめざくら)だ」
「とても美しゅうございますね、……義宗(よしのり)様。日和にもこのように美しい桜はございません」
幼子のように笑う義宗様に釣られて私も笑う。
「っーー」
すると義宗様が片膝を着く。
慌てて私は義宗様に駆け寄る。
「いかが、されましたか?」
「傷が痛み出した、ちと無理をしたかの」
「桜なら、まだ先でもよろしかったでしょう?」
その場に座り、義宗様の背を摩る。
ほんに顔色がよろしくない。
そこまで無理をされて来たのかと思うと、見ていてお労しい。
「今日でなければ、今日でなければ、この東雲桜は散ってしまう。明日から三日祭じゃ、嵐が来る故にこの桜は散ってしまう。だからそなたと今日この東雲桜を見たかった」
この時の義宗様を私は生涯忘れることはないだろう。
悲しみと憧れ。
まるで儚いものを見ているように、何かを諦めたような眼差しを浮かべながら笑っていたのだ。
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