第一幕・桜【前編】

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「この忍塚(しのづか)山に咲く唯一の桜、東雲桜(しののめざくら)だ」 「とても美しゅうございますね、……義宗(よしのり)様。日和にもこのように美しい桜はございません」  幼子のように笑う義宗様に釣られて私も笑う。 「っーー」  すると義宗様が片膝を着く。  慌てて私は義宗様に駆け寄る。 「いかが、されましたか?」 「傷が痛み出した、ちと無理をしたかの」 「桜なら、まだ先でもよろしかったでしょう?」  その場に座り、義宗様の背を摩る。  ほんに顔色がよろしくない。  そこまで無理をされて来たのかと思うと、見ていてお労しい。 「今日でなければ、今日でなければ、この東雲桜は散ってしまう。明日から三日祭じゃ、嵐が来る故にこの桜は散ってしまう。だからそなたと今日この東雲桜を見たかった」  この時の義宗様を私は生涯忘れることはないだろう。  悲しみと憧れ。  まるで儚いものを見ているように、何かを諦めたような眼差しを浮かべながら笑っていたのだ。
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