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「わしはな、桜。この東雲桜が満開になるところを見たことがない。そしてこの先も見ることは叶わぬだろう」
「なぜそのような、悲しい物言いをなさるのですか?」
目の前の東雲桜を見ながら義宗様は、寂しそうに目線を東雲桜から私に流してきた。
それが私の胸を締め付けたのだ。
「この桜が満開になる前に三日祭は来る。そしてわしが嵐を呼ぶ故、決まって花は散る。だから毎年必ず三日祭の一日前に東雲桜を見に来ておるのだ」
目の前の東雲桜はとても美しかった。
まだ一面薄紅とはいかぬが、それでもこの東雲桜には言葉にはできぬ美しさがあった。
湖の中央の小さな島に一本だけある大きな桜。
水面に付いてしまいそうな枝。
湖に映し出される姿もまた、ほんに美しい。
この東雲桜を義宗様と見れて良かった。
「あの、義宗様。来年もまた見に参りましょう?その次の年も、そのまた次も。さすればいずれ満開の東雲桜に会えましょう」
「ああ。来年も、そのまた次の年も、そなたと東雲桜を見に来よう。それが出来うる限り」
その時、義宗様の空色の眼に強い光が宿っているように見えた。
まるで何かを決意したようじゃった……。
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