第一幕・桜【前編】

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 帰り道、私は義宗様と初めて手を繋ぎ寄り添って帰った。  初めて義宗様が恐ろしくないと思ったのだ。  ようやく夫婦になれた気がした。  三日祭。  それは土地の神様に神子が三日間、忍塚山に籠り祈りを捧げる祭り。  神子の祈りが通じれば、嵐が来てその年の豊穣は約束されるという。  そして神子の祈りは必ず聞き遂げられる。  そういう言い伝えなのだと義宗様から聞いた。  義宗様自身が三日祭の神子だった。  義宗様が忍塚山に籠られて三日目。  空を見ると雲行きが良くない。  風も強まってきておる。  ……もうすぐ嵐が来るようじゃ。  私は嵐が好かぬ。  嵐は母上様を連れて行った。  私が六つの時の話じゃ。  穏やかな土地である日和の国に嵐が来た。  皆が慌てふためき、嵐はひと月も居座り続けたのだ。  雨が降り続き、風が止むことは無く、時折鳴神様まで姿を現した。  これ以上嵐が居続ければ、その年の作物に影響するほどであった。  元々備蓄の少ない貧しい国だった。  だから皆が嵐を恐ろしがった。
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