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首都─────ロンドンから少し離れ、霧けぶる森を抜けると手入れの行き届いた屋敷(マナーハウス)があらわれる。
その屋敷に住まう名門貴族・ファントムハイヴ家当主に朝は一杯の紅茶(アーリーモーニングティー)から始まる。
「坊ちゃん、お目覚めの時間ですよ」
心地の良い上品な男声が、朝日差し込む当主の部屋で紡がれる。
もぞもぞと未だ眠た気にベッドで身じろぐ小さな主人に、紅茶を注ぐ執事の隣で笑みを溢す影が一つ。
「本日の朝食はポーチドサーモンとミントサラダをご用意致しました。付け合わせはトースト、スコーンとカンパーニュが焼けておりますが、どれになさいますか?」
「‥‥‥‥スコーン」
鈴を転がした様な、朝露に濡れた草花と小鳥の囀りが似合う女声に応えた主人は、やはり眠た気に欠伸を漏らした。
「この香り‥‥‥‥今日はセイロンか」
「ええ、本日はロイヤル・ドルトンのものを」
「ティーセットはウェッジウッドの蒼白(ブルーホワイト)でご用意致しました」
いつもと変わらない、主人と使用人達による朝の会話。そして、毎朝と同じ様に侍女が執事へと服を渡し、執事が主人にそれを着せる。
「今日の予定は?」
「本日は朝食後、帝王学の権威・ユーグ教授がお見えです」
「そしてご昼食後は──────」
侍女から言葉を引き継いだ執事は、主人の襟飾をきゅっと結んだ。
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