第1話 その執事、有能

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「全くだ‥‥わざわざ秘境まで行って連れて来た拳法の達人‥‥‥‥今日こそ地に膝を付くお前が見れると思ったんだがな」 「それは残念でございました」 溜め息を吐く主人と微笑む執事、面白そうに笑みを浮かべる侍女。なかなか絵になる光景だ。 「ご苦労だったな、セバスチャン。まあ飲め」 「恐れ入ります」 主人が差し出したグラスを受け取った執事は、それを一気に飲み干す。 その後ろでは庭師と家女中が嬉しそうにはしゃいでいた。 「──────ところで」 しかし、執事の一言で彼らの動きが止まる。 「貴方達はどうしてここにいるんです?」 危険を感じて冷や汗を流し始めた使用人3人組に、侍女が「あらあら‥‥‥」と面白そうに目を向けた。 「フィニ、中庭の草むしりは終わったんですか?メイリン、シーツの洗濯はどうしました?バルド、貴方は晩餐の仕込みをしていた筈では?」 「え‥‥えっと‥‥‥‥」 一気に言い放った執事の問い掛けに慌て始めた使用人達は、主人の隣で未だ笑みを浮かべている侍女に目で助けを求める。 彼女はまだ少女の様な容姿だが、こう見えても使用人達にとっては頼りになる存在らしい。 「私なら‥‥‥セバスチャンの雷が落ちる前に持ち場に戻るかな」 考える様に頬に食指を添えた侍女が「ね?」と小首を傾げると、使用人達は「はいっ!」と元気良く各々の持ち場へと散って行く。 「はぁ‥‥セリーヌ、貴女は彼らを甘やかし過ぎです」 「あら、良いんじゃない?『仕事』は出来なくても『掃除』さえ出来れば」 さらりと紡がれた言葉に執事が再び溜め息を吐いたとき、思い出した様に主人が口を開く。 「仕事と言えば‥‥‥セバスチャン、セリーヌ」 主人の呼名に、執事と侍女は緩んだ空気を引き締める。 「イタリアのクラウスから電話があった」 「クラウス様から?」 執事は立ち上がる主人の椅子を引き、侍女はグラスを下げながら耳を傾ける。 「それについて少し話がある。来い」 「「かしこまりました」」 侍女はグラスの載ったトレイを家令に渡し、主人に杖を渡した執事と共に小さな背に付いて行った。 .
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