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「────では、クラウス様が直々に本国へ?」
坊ちゃんに連れられて足を運んだのは、我が主の私室。
「ああ、例の品が手に入ったと連絡があった。今回は大分手こずった様だな‥‥‥6時にはこちらに着くそうだ。商談は我が家で行う」
あらあら、仕事が増えてしまいましたね。
なんてことを考えていると、坊ちゃんが悪戯っぽい笑顔で私達に目を向けた。
「どういうことか分かるな?セバスチャン、セリーヌ」
そう聞かれると、私達の応えは一つ。
「心得ております」
「必ずやクラウス様にご満足頂ける最高のおもてなしを─────」
全く以て使用人使いが荒い主人だ。私達だからって、言えば何とでもなるとお思いなんでしょうけど。
「─────ときに坊ちゃん」
心の中で溜め息を吐いたとき、隣でセバスチャンが口を開いた。
「先程のレモネードには一体何が?」
思わず笑みが零れた。
げっそりとした様子で胸に手を当て、「胸焼けが止まらないんですが‥‥‥」と洩らすセバスチャンは貴重だ。
「タナカ特製『味○素』入りレモネードだ。僕は一口でやめたがな」
「砂糖と間違われたんだと思いますよ、白いですからね」
笑いながらそう言うとセバスチャンに凄い勢いで睨まれたが、そこは涼しい顔で受け流す。
あのレモネードが壊滅的に美味しくないということは勿論知っていたし、坊ちゃんがそれをセバスチャンに飲ませるだろうということも容易に想像出来た。
なら、何故あの時言わなかったのか。答えは簡単、面白そうだったから。
「では、私達は準備を致しますので」
「ああ、頼んだぞ」
セバスチャンを無視したまま坊ちゃんへと声を掛ける。「お任せ下さい」と優雅に頭を下げることも忘れない。
パタンと坊ちゃんのお部屋から2人で退室したとき、セバスチャンが小さく溜め息を吐く。
「セリーヌ、貴女知っていましたね?」
「あら、面白かったんだから良いじゃない」
胸焼けを起こしたセバスチャンは中々に笑えた。今日のところは満足だ。
「それに‥‥‥‥楽しくない生活なんて、私にとっては契約違反よ?」
にっこりと微笑んでそれだけ言うと、おもてなしの準備に向かう。
そう、楽しくない生活に興味は無い。『極上』とまではいかなくても、ある程度の面白みがなくては。
「‥‥‥‥そう思うでしょう?」
その呟きは、誰かに聞かれる事無く消えて行った。
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