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やっと耳を離してもらえた……。大丈夫かな、私の耳変形してないかな。リンクみたいな耳になってないかな。
やだな、わざわざゼルダを助けに行く冒険とかしたくないよ、めんどいし。危険おかしてまで助けたくないわー。引きこもりたいわー。
「……で、なんだっけ? 紅魔館?」
──紅魔館。
幼い吸血鬼が住む、紅に染められた恐怖の館。
不思議と幻想郷の中でも強力な妖怪と、強力な外来人が集まる場所。
そんな場所で働く人間が2人存在する。
その2人のうち1人がスーパー可愛い優未ちゃんなわけだけど……。
「私が最近紅魔館行ってないのはね、花粉が酷いからなんだよね」
私は窓の外の大きな茸を見た。
魔法の森には私の背丈を軽々と越える化け物茸が生えている。
それのせいで胞子が日々降り注ぎ、木々で太陽の光が届かないこの薄暗い森は、私みたいなただの人間や魔法に耐性のない妖怪なんかは、簡単に魔法に蝕まれてしまう。
外に出るときはマスク必須。
「花粉?」
「花粉。胞子だけでも辛いのにここ最近目に見えるまで増えやがって……花粉って普通見えないよね、もうあんなの麻痺状態になるまえに窒息するっての」
「へえ、気づかなかったわ」
「ヒッキーだから?」
「魔法に耐性があるからよ。……まあ、確かに最近森の中の魔力が濃いわね」
アリスは私の隣に来ると、同じように窓の外を眺めて、ぼそりと言った。
「……もうすぐ春が来そうね」
「……春ねえ」
「……探してくる?」
「……うん。……は? 探す? ……蕗の薹みたいなのを? たらの芽とか?」
アリスの呟きに私がそうやって返すと、彼女は可笑しそうに笑って、悪戯でもするかのような顔をした。
「取り合えず、一番近そうな所に行ってみましょ」
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