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そんなこと言っても、つれて行ってくれるはずがなかった。
このシロウサギはアリスの物語に出てくるシロウサギじゃない。
時計は持ってないし、急いでもいない。
そんなことわかっているのに、そう言わずにはいられなかった。
ヒクヒクと鼻をひくつかせるシロウサギはじっとこっちを見ている。
すると、シロウサギはいきなり走りだし、図書室から出て行ってしまった。
図書室から出て行く時、一度ドア付近で立ち止まりあたしの方を振り返った。
まるで、ついてこいと言ってるかのように。
なんだろう。
こんなに興奮しているのは何年ぶりだろう。
何かあたしの物語がはじまる、そんな予感さえ感じた。
あたしはアリスになったつもりでシロウサギを追いかけた。
ウサギはあたしを誘導するかのように、止まっては走りを繰り返している。
すると、シロウサギは階段ロビーにある大鏡の前にちょこんと座っていた。
美月も大鏡の前に着くと、膝に手をつき肩で息をしていた。息を整えながら、シロウサギの方を見ると、シロウサギはじっとあたしを見つめているかのように思えた。
その目を見つめていると、なんだか引き込まれそうだ。
シロウサギの目…それは、まるで何かを伝えるかのようだった。
次の瞬間シロウサギは鏡に向かって走りだした。
「あ……!!」
ぶつかる…そう思った瞬間美月は思わず声を出していた。
その刹那、シロウサギはすうっと鏡に吸い込まれるかのように、すり抜けて行った。
「えっ……!!?」
どうゆうこと?
今、すり抜けたよね?
なんで?
これ、夢じゃないよね?
今起きた出来事に、頭の中を懸命に整理しようとする。
ただ、美月は大鏡の前にたたずんでいた。
今、起きた現実を信じられずにいた。
美月は鏡に映る自分の姿を見ていた。
ふと手を伸ばしてみる。
すると、美月の手も鏡をすり抜ける。
美月はあせって手を引き抜いた。
やっぱり怖さを感じた。
この非現実的な現実に…。
しかし、怖さとは反面にドキドキやワクワク感もあった。
このまま鏡の中に入ったら、このくだらない世界からぬけだせるかな。
そう思った瞬間、怖さなんか吹き飛んでしまった。
鏡に向かい一歩ずつ前に進んで行く。
目をつぶりながら、鏡の中へと入っていく。
すうっと体全体が鏡の中に消えて行った。
そう…これがすべてのはじまり…。
あたしはこの世界から抜け出した。
不思議な終わることのない世界へと…。
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