第6章:アリス

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アリスが倒れた父親を発見した時には、すでに手遅れだった。 父親はそのまま帰らぬ人となった。 また、辺りが歪む。 また、時間が流れようとしてるんだ。 そこには、たくさんのお墓があった。 西洋なので、たくさんの十字架が立っている。 ある十字架のお墓の前に黒い服を喪服を着たアリスが立っていた。 その周りには親族らしき人達もいた。 あたしは近づき、アリスの表情を見てみた。 涙は流していなかった。 その代わり、目は真っ赤になっていた。 きっと、すでにいっぱい泣いたのだろう。 アリスの胸には、アリスの物語が抱きかかえられていた。 父親がアリスのために書いた、最初のアリスの物語…不思議の国のアリス。 アリスは十字架の下に埋め込まれた石碑に花を置いた。 石碑には父親の名前が刻まれている。 ルイス・キャロル やっぱり、アリスの物語の作者はアリスの父親だったんだ。 ていうことは、アリスのフルネームはアリス・キャロル? アリスは腕に抱えた本をぎゅっと強く抱きしめ、その場を後にした。 しかし、アリスは父親が自分のために書いてくれた物語を手放すことはできなかった。 この本を読んでて、父親が倒れたことにも気づけなかった。 それでも、手放せなかった。 この本にはアリスを想う、父親ルイスの想いが詰まっているから…。 アリスは涙を流しながら、アリスの物語を読んでいる。 父親が亡くなってからは、毎日泣きながらアリスの物語を読む日々を送っていた。 もう…お父様がいないこんな世界にいても、意味がない。 どうせなら、この本の中に入れたらな。 この本の中に、お父様がいる気がする。 アリスの気持ちが伝わってくる…。 悲しい気持ち…。 アリスの涙が零れ落ち、本の上へと染みをつくる。 その瞬間、あたりが光に包まれた。 え…? なに…? 目が眩み、あたしもアリスも目を瞑った。 目を開けると、アリスの目の前にはシロウサギがいた。 え… あれって…。 その瞬間、アリスは明るい表情になった。 父親が亡くなってから初めて見せる笑顔。 そして、アリスはシロウサギを追いかけて行ってしまった。 こうして、物語ははじまりを迎える…。
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