1始まりの調べ

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さっきから、何度か話に出てきたが、この女性が夏菜だ。 クリっとした目が特徴で、長い髪をポニーテールにして快活そうなイメージを受ける。 文芸部に所属しており、将来は小説家になりたいのだそうだ。 そのための勉強で、常に何かしらの小説を読んでいる。 え?俺達の部活動? 帰宅部ですが何か? 「うん、そうなの…… 席は空いてるから、好きなところに座って」 どうやら皿を洗っていたようで、手拭いで手を拭きながら俺達にそう促す。 「お、おう」 なんでお前がガチガチになってんだよ。 普通逆だろ。 なぜか緊張している清太を尻目に俺はスタスタと隅の窓際のテーブル席に座る。 俺が座ったのに気づくと、慌てて清太も座る。 ふいに清太が口を開く。 「凛桜、よく普通に喋れるな。 初めて入った店に幼なじみが居たんだぞ?」 「別に、そんなに広い町じゃないし、こんなことしょっちゅうだろ? いちいち気にしてたらキリがないって」 「まあ、それもそうか……」 いや、お前が緊張し過ぎなんだよ、普通に。 俺がメニューを眺めながら、興味なさそうに答えると、清太もメニューを眺め始める。 「まさか、見つかるとは思わなかったな。 はい、お冷や」 「お、サンキュー」 知らないうちに、夏菜が近くに来ていたらしく、コップに注がれたお冷やをテーブルの上に置いた。 「たまたま入ったら、夏菜が居たってだけさ。 清太決まった?」 「んー、まだかな」 「オムライスとアイスコーヒーを頼む。 清太はいらないってさ」 「ちょ!待てや! 頼ませろや!」 「えー、めんどいからやなんだけど。 じゃあもう、残飯とかでもいいか?」 「なぜそうなる!? あーもうあれだ! ナポリタンとウーロン茶くれ!」 この何気ないやり取りもいつも通りだ。 俺が清太をいじり、清太がそれにツッコミをいれる。 幼稚園のころから変わらない、いつもの風景だ。
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