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咲津中学は私立学校で、咲津高校に併設され、最終的な有名大学進学率が高い。
反面、落ちこぼれた者の荒れ方も多種多様だ。
通常、落ちこぼれれば公立中学に回されたりするが、ここはそうしたことがマレである。
それを学校側は、誰も見捨てない、と説明している。
瀬織と、真新しい詰め襟制服を着た刃平は、山田シホと山田タクと名乗り、転校手続きをするため、職員室に入った。
瀬織は通り掛かった手近な30歳くらいの男性教員を捕まえ、
「山田タクの姉のシホです。タクの転入届けにきました。
担当は品川先生ときいてますが、いらっしゃいますか?」
と話す。
男性教員はしばらく瀬織をポカーンと見つめる。
瀬織の美貌を前に、意識が飛んでいる。
しばらくすると、
「え!あ!品川ですか!お待ち下さい!」
ダッシュで職員室の奥に走り、50歳くらいのデップリ太った男と何か話すと、その太った男が近づいてきた。
満面の笑みがやや気持ち悪く、刃平は引いた。
「山田様ですね、品川です。
さささ~さーこちらへ。」
二人を校長室に案内した。
校長室は三階の音楽室の奥にあった。
刃平は、変わった場所にあるもんだと内心、思う。
一階にあるのが普通だと思うからである。
入ると、立派な調度品が置かれた部屋たった。
中にいたのは、身長190センチくらいの初老の男だった。やや太めだが、昔は鍛えていたことが伺える。
「ようこそ、咲津へ。校長の谷井です。」
大男は握手を求めてきた。
刃平はこの男のモヤの色、形から、頑固に意思が強いタイプと見てとれた。
校長のすすめで応接セットのソファー椅子に座る。
案内してきた品川に男は
「百木くんを呼んでくれ。君は授業に行く時間だろう。」
と、いいつけた。
品川が出ていくと校長は
「まず多額な寄付金をありがとうございます。」
と礼を言う。
刃平は、試験もなしに私立校に入れたのが、寄付金によるものと知った。
瀬織はおばさん風に手をひらひらさせた。
「あらいやですわ、あれくらい。
おバカな弟がお世話になるんですから、おほほほ。」
どうやらおバカな生徒を裏口入学させたシチュエーションらしい。
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