1.私立中学潜入

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校長室を出て二人は歩きだす。 刃平が 「姉さん、何をし…」 言いかけたとき瀬織が目配せした。 (まだ話すな。) 刃平は黙る。 校長室のドアか開き、百木が小走りに二人に駆け寄る。 「あの…案内を、私が案内しますから。」 百木の言葉が滑らかに出なかったところから、瀬織はピンときた。 「ありがとう。悪いわね。嫌な役目させちゃって。 校長に釘刺されてきたんでしょ? 案内してやれ、余計な話しはさせるなってところね?」 百木はオドオドと目が泳ぐ。 「あ、いえそんなことは」 瀬織はニコッと笑った。 「あなた、いい人ね。信用できそう。」 信用という言葉でプレッシャーを与え、瀬織は根が善人の百木に揺さ振りをかけている。 百木はうつむき、 「こっちです。」 二人を案内した。 保健室に入ると、デスクに向かう中年で丸い体型の白衣のおばさんと、ベッドに横たわる佐久原南奈がいた。 他にはいない。 百木がおばさんに 「木村先生、山田さん姉弟が佐久原さんに会われたいということでお連れしました。」 と説明する。 おばさんは木村という名前である。 ベッドにいた佐久原が体を起こすと、ベッドから降りた。 佐久原は、刃平に駆け寄り、両手を握る。 「君、助けてくれて、ありがとね。」 佐久原はつかんだ両手を上下にブンブン振る。 刃平がびびりつつ、聞いた。 「あの、怪我はなかったみたいで…すね?」 「はい!それで、あなたの名前教えてください!」 「あ…山田タク…」 「占いで聞いた通りだ。 あなたが王子様ってわけね!」 「は?」 「偉い占いの先生が、今年の秋ごろにピンチを救う男が現れる、 山が関連した人物で、それがアタシの王子様であるって言ってたのよ! 名前に山があるでしょう?山田君。」 刃平は瀬織の顔を見た。 ニヤニヤしている。 百木は呆気に取られている。 保健の木村も同様だ。 刃平はフゥと息を吐いた。 「なんか心配いらないみたいだね。」 「心配してよね、あなた何年生?何組?」 「2年5組になるときいてる。」 「あら、じゃあ転校生か。じゃーん!アタシも5組。 これはもう、運命を感じるな。」 「思い込みと偶然だと思う。」 そこで瀬織が刃平の下腹部に手を当てた。 ジュウッという感じで、気が注入された。 刃平は思わず 「ぅっ」 と声を漏らした。
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