愛しきみえ

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「よく言えました…」 と彼女が言う。さぁ俺のプロポーズの言葉だ。台本では『俺はお前が好きなんだ。好きで好きでたまらない。君がいないと俺はどうしょうもなくて、だから(1、2拍おいて)…結婚、してくれ』なのだが、今の彼女の笑顔を見ているとなんか違う気がする。ふと、今この数秒─何分にも感じているが─に、いのうえ美紀は井東紀美枝に戻っている気がした。このまま、この役のまま台詞を言うのは違う気がした。今、ここで言うのは台詞じゃない。俺の言葉だ。俺の言葉。俺の言葉で、紀美枝への想いを、紀美枝に、言わなきゃいけない。言おう。言おう。 「俺はお前が好きなんだ。好きで好きでたまらない。君がいないと俺はどうしょうもなくて、だから…結婚、してくれ」 ふり絞っていった。そうしたら、彼女は突然近寄ってきてキスをしてきた。 裏の仲間もキョトンとしたが、台本通り出てきて花を撒いて祝福した。花びらの中、彼女はグッと俺を抱き締めてきた。
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