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紀美枝との舞台から半年が過ぎた。
何故かあれから劇団は自然に集まらなくなり、いのうえ美紀にも会えなくなった。
あの舞台─俺が俺なりに一生懸命に演じて叫んだ舞台─はなかなか評判は良かった。シンプルで偏屈、奔放な女と情けない男の妙な恋の駆け引きがよかったという。特にブランコの前でお互いの今までの恋をぶちまけるシーン。「本当みたい」と言われたが、そりゃそうだ、少し嘘だったけど、名前は本当だから。いのうえ美紀の方は本当かどうかは知らないけど、彼女なんだから本当だろう。
そんな年の冬、俺はいのうえ美紀の訃報を知ったのだ。
少し痩せたと聞いたので、とうとう映画から声がかかり、役作りで体重を落としてるのかとも思ったが、そんな噂も聞かなかった。変だと思っていたら、まさか急性の白血病とは。
あの舞台の日はすでに病に犯され、それをしってやっていたらしい。そんなのを隠してあれを演じるなんて、ほとほと芝居の固まりのような女優だったのは間違いない。
そして、そんな紀美枝を好きだったのも間違いない。
しかしどうして彼女に限ってそんな。
そんな。
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