愛しきみえ

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本番を迎えたのはそれから3週間後だった。少しだけ宣伝を打ち、それなりなポスターを作った。それなりに前売りは売れたらしいから、それなりに観客は入るようだ。 あの日からいのうえ美紀はたまにボケっとする事が多くなって、割れた鏡の端を見ては時間を消していた気がする。 それでもリハーサルはしっかりやってるから、資質は俺なんかよりずっとあるのだ。 夜7時。5分遅れて幕が上がり、ありがちだが芯に響きそうな舞台は始まった。彼女は笑っては怒り、泣いたりして俺演じる男をかどわかしていた。他の出演者は彼女や俺の役に嫉妬したりはっぱをかけたりしてそのまま物語は進んで行く。 じわじわとアドリブのシーンは迫っていった。本当に本当の事を言うのか?不安で彼女を見ると、ウィンクなんかしたりして本気感をあおる。どう言えばいいのか。どうすれば。ぐんと暗転し、道具準備係─と、言っても他の出演者も含めた人─がいっせいにセットのブランコを用意する。よくできたブランコだが、実際に乗ったら壊れてしまう。明るくなり、いのうえ美紀が出て、俺が出る。いくつか台詞がある。彼女は怒りながら俺に「じゃああんたは今までどんな人を好きになって来たのよ、言っ てご覧よ」と投げつける。
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