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「おう、いらっしゃい」
立てつけの悪い扉が唸る音に、店主は麺の湯切りをしながら声を上げた。
夕食時をとうにすぎたこの時間に訪れる客は、大抵馴染みの者しかいない。店主が客に意識を向けるよりも目の前の注文品を優先させたのはそういう理由からだったが、いざそちらに視線を伸ばせば、その考えは半分当たりで半分外れだった。
「大将、久しぶり。新しい客を連れてきましたよ」
そう声をかけてきたのは、言葉通りここしばらくご無沙汰ではあったが、見慣れた常連客である。だが、連れは見覚えのない若い男だ。客はその二人連れだった。
彼らはカウンターに陣取ると、若い男の方がきょろきょろと周囲を見回す。
「メニューはねぇよ。定食かラーメンかだ」
「あ、じゃあラーメンで……いや、やっぱりちょっと待って下さい。……定食で」
「おう。兄ちゃんはラーメンでいいよな」
馴染み客が頷く頃には店主は厨房へと戻っていた。
「いやー、久々に大将のラーメンが食えますよ」
「なんだ、忙しかったのか」
「ええ、でかいヤマがありましてね」
深刻そうに顔を抱える男を見て、若い男が「え」と声を漏らし、店主は鼻で笑った。
「そんな話は聞かないがな」
麺を熱湯に放り、冷凍庫から取り出したフライをフライヤーに投げると、店主はリモコンを手にとりテレビのチャンネルをバラエティーからニュースへと合わせる。丁度耳慣れたテーマ曲が流れ、トップニュースはスポーツの話題だった。
「ニュースで取り上げられてなければ平和ってわけじゃないっすよ」
「そりゃそうだろうが、まあ、胡散臭い根拠はそっちの兄ちゃんの馬鹿正直な顔だな」
言われて男は連れを振りかえり、頭を小突く。
「顔に出るようじゃこの仕事、勤まらないぞ?」
「は、はい、すみません」
その小言が本気か冗談か声の調子では判別がつきかねたが、どちらにしても若い男の答える言葉はそれ以外にはなかっただろう。そう周囲に確信させるほど人が良さそうな彼は、馴染み客と同じ仕事だとすれば確かに向いていないように見える。
丼にスープを注ぎながら店主が苦笑していると、ああ、と馴染みの方がまた声を上げた。
「まだ紹介していませんでしたね」
「なんだ、結婚相手でもあるまいし、そんな改まって紹介していらねぇよ」
「まあそう言わずに。まさかの人物なんっすよ~」
そう声を上げたところで、また出口の方から派手な音が聞こえる。
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