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ホームの階段を二段飛ばしに駆け上り、真夏は切れた息を整えながら車に飛び乗った。だがエンジンをかけてもなかなか日野が現れない。
呼吸が正常に戻った頃にようやく現れた日野は、だが助手席のドアの前で煙草に火をつけた。
「な、何してるんですか先輩。急がないと」
「んな急がなくても、もう署の奴が向かってるって」
窓を開けて急かす真夏に、日野は煙と一緒に間延びした声を吐きだした。その様子に呆れながらも、そう言われてしまえば真夏も納得して大きく息をつく。痴漢の現行犯逮捕を報せる無線を聞くともなしに聞きながら、真夏はぼうっと短くなっていく日野の煙草を眺めていた。と、急に日野は煙草を地面に押し付けると、胸ポケットを探りだす。
「はい、日野です。……今現場で防犯カメラを見ていたところですが……はい。はい。了解しました」
取りだした携帯に向かって二言三言喋ると、日野は携帯灰皿に煙草を放りこみ、舌打ちしながら助手席に乗り込んできた。
「どうしたんですか?」
「係長が、例の現行犯逮捕のやつに向かってマルヒを連れてこいだと。いけしゃあしゃあと『お前ら今どこにいる~?』だぜ。あの昼行灯、やる気ねえな」
「先輩、そのうちほんとに怒られますよ」
嘆息しながら、真夏は赤色灯を車の上に乗せてギアを一速に入れた。ウゥン、とサイレンが唸りを上げた。
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