18人が本棚に入れています
本棚に追加
/5ページ
ーーーバァタァン!!!
頭と頭がぶつかり、クラクラした。相手はうつ伏せになったまま固まっている。一方自分は立ち上がり向こうが何を言ってくるか怯えていた。
ちょうど美術教室から帰ってきた2ー2の女子生徒がその姿を見守っている。倒れたやつに絡むべきか無視するべきか戸惑い、その結果立ち止まっているのだ。
「あれ?あそこにあるの飛行船じゃない?」
ひょろ長い色白メガネの一言で二人の注目は逸れた。ラッキー。和解すべきかと思った。しかし気まずくなり別々の教室へ逃げてしまった。
ケーキそのものの形をしたユニークな菓子店に入ったきっかけーーー偶然だった。理由はあまり覚えていない。5月の終わり異世界に迷い込んだように瞬間的にその建物の前に立っていた。
≪パティシエ募集中♪電話はお気軽に6≫6-66○○≫
壁におしゃれな貼り紙。英字の文も書いてあり外国人にも分かりやすくしてある。
扉が開く。腹に直撃し唸る。ごく普通の格好をした中学一年ぐらいの男が立っていた。こちらを見て首を傾げている。
「どこから来たんだ?」
ーーーもう3年前のことだ。
埼玉県立国文中学一年生、春崎は家庭科部に入った。なぜならパティシエに将来なりたかったからだ。
「いいよ、片付けは自分でやるから」
上級生の渡辺が気遣う。水道を開け皿の汚れを落とす。
「みんなの家庭科室でしょ。私も手伝う」
春崎もそれに参戦した。洗い終えると食器棚に置いた。ちゃんと拭かないとカビが生える。だから水分は全てタオルですいとる。
ーーーきぃ…。
「もう帰らないのか?」
いつものようにごく普通の容貌の男が入ってきた。肩には通学鞄を下げている。名札には千道。
「今行く」
二人は恋人では無い。3年前の出来事で出会い今年同じ国文中学の生徒になった。千道は現在中三。よく一緒に帰っている。
「パティシエになりたいって言ってたけどどっちかというとアレ…に向いてる」
「アレって?」
「言っても怒らないでくれ」
「内容にもよるけど」
「教えて!」
「AV女優」
電灯の下で春崎は止まった。
「胸が他の人に比べてけっこう大きいし」
菓子店の屋根が見え始めた頃着メロが鳴った。
ーーー♪♪♪
「嘘?春崎の両親がバス事故で死んだ?ーわ、わ、わかった」
携帯を切ると千道の兄を呼んだ。随分高級そうな車がすぐとんできた。乗り込むと行正市民病院へ向かった。
最初のコメントを投稿しよう!