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また滑り落ちる涙を指で掬い取る。
『本当は手放したく無かった。
何処かに閉じ込めて置きたいと思った事もあった。
でもな。俺の側から居なくなったとしても、美咲が笑って居てくれるならそれでいい。
きっと隼人の方が美咲にはいいんだろうと思った。
不純な動機で近づいた俺よりも。』
嗚咽漏らしながら、首を左右に振る美咲を、腕の中に収める。
服の胸元をギュッと掴みながら、もたれ掛かってきた。
そんな美咲の背中にさすりながら、顔が歪んだ。
『だから、一番酷いやり方で美咲を遠ざけた。
適当な女に声を掛けて、家に連れ帰って、美咲の前で抱き締めた。
美咲が俺の事を気にしなくていいように。
先に言っておくが、その女とは何もないからな?
お前が出て行った後、追い出したから。』
理由がどうあれ、美咲を傷つけたのは事実だ。
まるで傷付いたのが自分かの様な、歪んだままの顔を見せるのは気が引けて、耳元で呟く。
『辛い思いさせて悪かった。』
そう言うとコクリと頷いた。
一旦、美咲から体を離し、ポケットに入れておいた物を目の前に差し出す。
『これ・・・。』
そのまま何も言わなくなった美咲の視界に留まったのは、美咲からの手紙が入った封筒。
『昨日見つけた。』
正確には誠也さんがだが・・・。
それはまた、別の日に種明かしをしよう。
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