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『昨日といい今日といい、世話になったな。』
俺の言葉に怪訝な表情を浮かべながら隼人が口を開く。
『別に悠輔くんの為じゃないし。仲間内でゴタゴタしていたくないからね。それに・・・。』
そのまま隼人の言葉を待つ。
『それに、美咲ちゃんに辛い思いさせたのは、俺のせいでもあるし。』
苦い表情を浮かべる隼人に、美咲を思う気持ちが伝わってくる。
俺もその気持ちをよく知っているから。
『隼人のせいじゃない。俺がしっかり美咲を捕まえておかなかった事が原因だ。』
そうすれば、辛い思いもすれ違うことも無かったんだ。
『まあ、それもそうだね。』
既に悪びれる事もなく、平然と言う隼人に苦笑する。
相変わらずの隼人の態度に、『お前、本当に可愛くねーな。』と言えば、『悠輔くんに可愛いとか言われたくない!』と返ってくる。
いつも通りのやり取りに、心底安心する。
やっぱり、俺らはこうじゃないとな。
そんな俺と隼人の様子に気付いた美咲が駆け寄ってくる。
『隼人くん、昨日は迷惑掛けちゃってごめんね?』
申し訳無さそうな表情の美咲に、隼人の穏やかに口を開く。
『気にしないでいいよ。美咲ちゃんの可愛い寝顔見れたから。』
一瞬にして真っ赤になる美咲と、顔を歪める俺に、口角を上げる隼人。
美咲の肩を抱き寄せ耳打ちする。
『俺ね。まだ美咲ちゃんの事、諦めてないから。悠輔くんが嫌になったら、俺の所においでね?』
はっきり聞こえた内容に、思わず隼人に詰め寄る。
『隼人、お前・・。』
言い掛けたときに、亜弥が隼人を呼んだ。
『隼人くん!ビール足りないんだけどー。』
今日は貸切にしているらしく、酒の在処は隼人しか知らない。
亜弥の声に身を翻し、皆の方へと向かっていった。
意地の悪い笑顔を残して。
その後ろ姿に溜め息をついた。
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