その一

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 竹中信二、二十三歳。今日が記念すべき、彼の誕生日である。  さっき勢いよく飛び出して行ったのは、安田景子、二十二歳。一週間前に誕生日が過ぎたばかりで、信二より一歳年下。  この二人、約一年ほど前、友人の紹介で知り合い、交際を始めた恋人同士である。  景子は、今年大学を卒業したばかりで、信二が住んでいるアパートの近くの、会社の事務をしているOLだ。  会社には両親と共に住む自宅から通い、なかなか泊まりでは出してもらえなかった。といっても、両親が厳しいわけでもないが、どちらかと言えば箱入り娘的存在だろう。  しかし、今日は信二の大事な誕生日。両親には申し訳ないが、景子の友人に協力してもらい、何とか口実を作って、一泊二日の予定で信二のアパートに来ていたのである。  景子は今日の記念すべき信二のバースディを、二人で共に分かち合い、二人で共に喜び合おうと、仕事が先に終わる景子が、信二の部屋でパーティーの準備をしていたのである。
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