角砂糖

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「どうぞ」 篠月さんの低く尖るような声がドアの向こうから聞こえた。 「…失礼します」 少し汗ばんでしまった手をエプロンに拭うと、重たげな扉を開いた。 中は清潔さが伺えるような部屋だった。 白色を基調とした部屋でガラス張りのローテーブルの上にはカゴに入ったいくつかの飴玉がある。 窓には黒色のブラインドカーテンがしてあり、今は開いている。 キョロキョロとしていると篠月さんが左にある奥の部屋から歩いてきた。 「ありがとう。すまない、立て続けに予定が入ってきていてね。ブランチを食べる暇もない」 「いえ。」 俺は紙袋を篠月さんへ渡すと「ありがとう」と会釈し席へと戻っていく。 普段鋭い眼差しからは想像もつかない柔らかい笑みに何故かどぎまぎしてしまう。 「また何かあったら呼んでください」 「ああ、頼むよ」 俺は篠月さんが紙袋からとりだしたコーヒーの香りが部屋をつつみこむ。 「失礼します」 部屋を出ようとドアノブを握ったとき「なあ」と声をかけられた。 「なんですか?」 後ろを向くのが妙に怖くて振り返らないまま問うた。 「今夜暇か?」 その質問の意図を考え込んでしまった。 また、スコーンとコーヒーを持ってこいというのかもしれない。 「あ…はい」 「そうか。じゃあ、20時にまたここに来てくれるかい?」 「は、はあ…わかりました」 足早に部屋を出ると、カフェテリアへと自然と早歩きで向かっていた。
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