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5歳の頃だった。 僕は、外で初めて蝉を捕まえた。 嬉しくて、虫かごに入れて家に持ち帰った。 すぐに母に自慢した。 母は「すごいね」と褒めてくれた。 生まれた時から父はいないが、そんな優しい母が大好きだった。 一週間後、蝉は動かなくなった。 「どうして死んでしまったの?」 僕は母に尋ねる。 「蝉さんはね、地上では一週間しか生きられないの。それが自然な事なのよ」 母は、悲しそうに説明してくれた。 翌年、僕ら家族の飼っていた犬が動かなくなった。 母も、祖母も泣いていた。 「───はね、きっと幸せだったわよ」 もう名前も覚えていないが、その犬の名前を何度も口にし母は僕を抱きしめた。 どうして泣いているのか、僕にはわからなかった。 その翌年、母が交通事故で動かなくなった。 祖母も、近所の人も、母の友達も、泣いていた。 「ゆうくん。悲しいだろうけど、乗り越えなきゃだめだよ」 祖母は力強く僕を抱きしめた。 どうして、みんな泣いているのか。 その時、僕は異常だと気づいた。 僕は、みんなとは違った。 どうして、こんなに、美しいじゃないか。 不確定な、人間が、永遠へと昇華した瞬間だ。 涙が出るほどに、美しいと感じた。
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