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◇ ◇ ◇
「なあ、どう思う……?」
「知りませんよ。人間のことなんて」
少年がむくれて私に何も話してくれないので、いっそ知ってそうなのに聞いてみることにした。
物凄く迷惑そうな顔で、行商はこちらを見る。
もはや客商売をする者の目でなくなっているのは、私がいつも面倒くさい買い物の仕方をするからか、それとも売買以外の面倒くさい会話を持ち出すからか。
もしかしたら両方なのかもしれないが、不機嫌そうにもそもそと山のような荷物の中から何かを探してくれるあたり、彼もいい気質であることは否めない。
「オレは歪魔だから人間のことは分かりませんが……欲しいっていうならどうにか取り寄せます。欲しけりゃ次来る前にここから注文するもの選んでください」
そう言って行商は分厚い紙の束を渡す。
いや、束というかぶっちゃけ本の類に近い。
紐で固定されていないのに束ねられているのはどういう作りなのだろうか。穴も開いていないし……。
いきなり渡されたもののつくりに驚いてしまう。
そして、開けば開いたで中にはとてつもなくリアルでカラフルな絵がたくさん。
指でなぞってみるとつるつるとする独特の手触り。
絵具らしきものも確認できないが、これは果たして……。
「これ、なに?」
「何って……ああ。写真です。こことは違う世界で発達している一種の絵画技術です」
「へえ……」
異世界には、なんとも便利なものがあるもんだ。
もしや、この製本技術も異世界によるものなのだろうか。ページがまとめられているのに紐でくくった様子もなく、読めはしないが字体もぶれなく整っている。
おそらく、他の書籍も同じか?
ならば異世界は、相当な製本技術を持つのだろう。だとすれば……おそらく世界の本の数は、凄まじく多いのではないか?
「ふむ……」
興味深い。
今度行商に捉まって行ってみようかな……。
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