プロローグ

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 それは記憶の残留。近しい過去の一片が視界を通して広がっていく。  霞む光景を染めたのは揺れうごめく赤。恐怖を滲ませるその狂炎は、一切を惨状へと変えていった。消えていく街並み。風情が僅かに残る景観は、灰塵の中へと埋塞していった。    空には暗雲が立ち込め、夜陰を一層濃くする。  その闇夜がはびこる郊外の一角、そこに俺は立ち尽くしていた。消失していく営みをただ呆然と眺めながら。    一体何が……  思考は停止し、驚愕(きょうがく)だけが感慨を満たしていた。  だが、分かる。覚えている。  懐かしい情をうずかせるこの雰囲気は、変わり果てていく瞬間でも感じられる。    俺の……故郷だ。    一面を華やかに彩った花々も、賑わい溢れた活気も、何も在りはしないけど。  ここは紛れもなく俺の生まれ育った町だった。  刹那、何かが全身を駆け巡る。悪寒にも似た戦慄だった。  固まっていた自我は覚醒し、直感的理解がそれを示唆する。  これは……あの時の……  忘れることのない呪われた思い出。  俺はこの日、大事な居場所を抹消され、大切な人達を殺されのだ。      最愛の妹によって。                   
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