回想

2/7
前へ
/10ページ
次へ
これは、僕が一年生の頃の話。 確か、そう、ジャンプの発売日だったから、月曜日の朝のことだ。 朝、少々早く家を出てしまった僕は、通学路にあるコンビニへ、ふらりと入っていってしまったのだよ。 そこで出たばかりのジャンプを見つけ、手を伸ばし、躊躇した。 当時の僕は真面目だったのさ。 いや、今だって真面目であることには変わらないから、「頭が固かった」と言うべきかな。 僕は幼い頃から勤勉で、優秀で、所謂優等生だった。 それ故に、型にはまった堅実な性格だった。 だって、世間一般で言われている“理想”ってやつを、僕は体現できる能力があったからね。 自分の能力を自覚し“理想”通りの人間になろうと志し、無駄を省いた合理的な生き方を“理想”に置き定めてしまった僕は、ルールやマナーを犯すことが何よりも恐ろしいと思う、そんなつまらない人間になりかけていたのだよ。 確か、後期生徒会役員に内定していた時期だったから、余計だね。 生徒の手本となるべき僕が、登校前に漫画雑誌を買い学校へ持ち込むなんて、やっていいはずがない。 そんなくだらない考えを持っていた僕は、その時まで一度も朝にジャンプを読むという行為をしたことがなかった。 立ち読みも、当時の僕の中ではアウトだったらしいね。 え?優等生なら漫画は読まないって? そんなことはないよ。 高校生なんだから、周りの友達と上手く付き合うのに漫画という趣味はとても合理的な手段だった。 と、当時の僕は無理矢理正当化していたけど、きっと当時から漫画が大好きで、それだけはどうしてもやめられなかったんだろうね。 そう、僕は漫画が大好きだった。 だから、密かに憧れていたんだ。 少年漫画の主人公みたいに、型なんかブチ壊した、劇的で情熱的で破天荒な、そんな面白い生き方がしてみたいって。 けど、高校生になってしまってから、急に生き方を変えるというのはなかなか勇気のいることだったよ。 ただでさえ、誰よりも堅実に生きてきた僕だ。 今どきの高校生みたいに制服のネクタイを緩めることさえ、僕にはとても高いハードルだったんだ。
/10ページ

最初のコメントを投稿しよう!

116人が本棚に入れています
本棚に追加