回想

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  結局そのまま何も買わずにコンビニを出たところで、僕は願ってもないチャンスに遭遇した。 なんと、同じ学校の女の子が、他校の男子に執拗に連絡先の交換を迫られていたのさ。 「ね、お願い、この通り!ほら、初対面の女の子にここまで粘る俺勇者じゃね?だからさ、その勇気に免じて!メアドだけでも!」 「ごめんなさぁい。私、携帯電話持ってないの。学校って、携帯電話禁止だからぁ」 なんと素晴らしい状況。 このやたら断り慣れている女の子は、みんなもご存じ当時から苗代四天王と呼ばれていた学園屈指の美少女の一人、穂積秋さんだったんだよ。 当時の僕はクラスメイトである彼女に密かに憧れていてね。 これはまたとないチャンスに思えた。 だってそうだろう? ここで颯爽と間に割り込み、「やめろよ、嫌がってるだろ」とテンプレな台詞をはくだけで、僕はたちまち主人公さ。 まるで少年漫画のようにね。 けれど、今僕が秋さんと付き合っていないことから分かる通り、僕はいざその場面に出くわした時、躊躇なく飛び出していけるほど主人公体質ではなかったんだよ。 ナンパ男子が秋さんの手を掴んだその時、僕は思わずコンビニの店員さんに声をかけようかと後ろを振り返ってしまった。 その間の出来事だったよ。 「勇者ってのは可愛い女の子に強引に迫る奴のためにある言葉じゃないぜ。ドラクエでもやって学んできな」 「ひぃ!ご、ごめんなさい!」 「武田くん!ありがとう、助かっちゃった」 これまた皆さんご存じ、身長190センチを超える苗代の巨人、武田剛士くんが、僕に代わって颯爽とお姫様を救ってしまったのさ。 デカい上に動きの機敏な奴だからね、彼は。 そうして僕が建てるはずだったフラグは武田くんがおっ建ててしまい、二人は後に付き合うこととなるわけさ。 え?これじゃ武田くんと秋さんの馴れ初めだって? 僕の話はこの後だよ。 この失敗で盛大に落ち込み、カッチカチでつまらない自分の殻をどうにかして脱ぎ捨ててしまいたいと願う僕の目の前に、彼女が飛び込んできたのさ。 そう、文字通り飛び込んで、ね。
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