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「早乙女、フォローの仕方にも色々あんだろ。何も無理に会話しなくとも、重要事項を伝えるだけでも充分なフォローだ」
弱気になっている悠を一瞥し、朔弥は言った。
悠の話からして、流は話すことを好んでいないというのが朔弥の考えだ。
この学園に、そういった生徒は意外と多い。
「え、そんなのでいいんですか?」
「お前は園竜寺とどうなりたいんだ。友達になりたいなら話せばいいだろうが、無理に気張られてもいい気はしねぇよ」
これは、朔弥にも当てはまることだった。
家柄や容姿、学園での地位全てがこの学園で重視される。
朔弥はそんな環境で幼い頃から育って来た。しかも、上位の者としてだ。
そんな彼が遠巻きに見られ、媚びを売られ、まともな友人が出来なかったのは紛れもない事実。
会話するにも相手が緊張してしまい、話にならないことも数え切れない。
そんな経験をしているからこそ、どことなく流の気持ちが分からなくも無いのだ。
「……そうですよね。道理で、園竜寺くんが不機嫌になるはずです」
「次から気を付ければいいだろ」
励ますように言って、朔弥は立ち上がる。
そして、窓から外を眺めた後、扉に向かっては歩き始めた。
「見回りに行って来る。何かあったら連絡しろ」
「はい」
校内で事件が無いか見回るのは風紀の役目だ。
本来見回りは一日一回で足りていた。それだけ平和だったのだ。
だが、それが崩れたのはつい先日のこと。
一人の転入生の存在。
少々厄介な質の人物だったが故に、生徒たちが刺激に敏感になっているとでも言えばいいだろうか。
数日間で量の跳ね上がった仕事の原因を思い出した朔弥は、深い溜め息を吐いて校内へと歩き始めた。
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