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「避けなければ当たるだろ。お前はバカか」
「なっ、俺はバカじゃない!」
馬鹿と言われて頭にきたのか、大声で怒鳴り出すもっさり。
流は挑発のつもりで言ったのだが、どうやらもっさりは本気に取ったようだ。
騒がしいという第一印象の次に、単純という印象が浮かんだ。
「……俺は急いでる。邪魔をするな」
「邪魔ってなんだよ!」
「いきなり殴り掛かって来ることの、どこが邪魔じゃないんだ」
流は、冷めた目をもっさりに向けた。
急いでいることは事実で、本来ならこんなことをしている暇も無い。
すぐに準備に取り掛からなくてはならないのだ。
「俺は邪魔じゃない!」
話にならない。
そう理解した流の行動は早かった。
素早く相手の背後に回り、首元に手刀を落とす。もっさりの力が抜けていくのが分かると、腕で受け止め校舎の壁にもたれるように置いた。
その行動は、一分も掛かっていない。
起きる様子がないことを確認すると、流は背を向けて足を進めた。
「ヤバ」
腕時計を見ると、短針は十、長針は六を差していた。
十時三十分。現在の時刻である。
不味い、そう感じて気付けば言葉を漏らしていた。
その次の瞬間、流は己の長い脚を有効活用して全力で走り出した。
そうなると、もう他のことは流の眼中に無くなる。
授業終了のチャイムが鳴っても、教室移動の生徒が近くに居ようとも、今の流には関係なかった。
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