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1.仕事ください
ドンッドンッドンッ
「ベイン!いるのはわかってんだよ!さっさと出てきな!」
目覚まし時計以上のうるささが、熟睡していたベインの意識を呼び起こす。
ベインはまだ起ききれておらず、ぼんやりとしただらしない顔つきで布団から這い出て、おぼつかない足取りで音の根源に向かう。
玄関を開けると、いい言い方でふくよかな大家のおばさんが、でんっと立ちふさがっていた。
「おはようございます」
寝ぼけているベインはそれに全く動じない。
「おはようじゃないわよ!今日が何の日かわかっているんだろうね?」
「……」
眠い目をこすりながら、まだ働かない頭で考える。が、結局答えは出ない。
「何の日、でしたか?」
「や~ち~ん~。三ヶ月滞納してて、よく家賃徴収日を忘れられるもんだね」
そろそろ働き始めた頭がその言葉を理解し、頭から血の気が引いていく。
「す、すいません!まだ、お金が……もう少し待って……」
「もう待たないよ。でも、私も鬼じゃない」
ベインは息を潜めて大家の次の言葉を待つ。
「五日。五日だけ待ってやるよ。その五日後までに百ケロン用意しな。それでも用意できなきゃ、そん時は出てってもらうからね!」
バタンッ!
大家が力任せに玄関を閉める。
大家がいなくなり、静けさが戻った玄関を目の前にベインは呆然と突っ立ってしまう。
「お、鬼だ……」
ベインはやっとつぶやき、そして気づく。
「こんなことしてる場合じゃない!仕事、仕事しなきゃ!」
ベインは勢いよく家から飛び出し、
「ベイン!パジャマのまんまでどこに行く気だい?!」
大家の叫び声で、家に引き返していくのだった。
◆
金の砂が敷き詰められた道をベインは走る。
豪華で派手なこの道を嫌いではないが、滑りやすくて眩しいため急いでいるときはかなり迷惑な道である。噂によればこの道は市長が隣町と張り合って税金で作らせたらしい。それもあってこの道は市民たちにはとてつもなく嫌われていて、きっと市長は次の市長選の前に辞めさせられることになるだろう。
税金をきちんと納められていないベインには関係ない話だが。
空には両手に風船を持って、うまくバランスを取りながら飛んでいる人々がいた。ベインにもあの風船があればすぐに職場にいけるのだが、もちろんベインにはマイ風船を買えるほどのお金もなかった。
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