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◆
バタンッ!
「しゃちょー!」
ノックもせずにベインは社長室の扉を開ける。白を基調とした清潔感ある部屋の中には人が二人。一人は社長椅子に座っている女社長ハピネス、もう一人はハピネスの前に立っているベインの同期ブラインである。
ベインも一応は会社に勤務する社会人である。ただし、
「社長、仕事をください!」
「嫌よ」
ベインは若くして窓際族であった。
ハピネスは冷たい一言をベインに投げつけると、ブラインに向き直り、
「じゃあ、ブライン。この仕事を今週中に終わらせてね」
机の上で塔を作っている書類をブラインの方に押す。
「こんなには無理っすよ」
「なら、僕に!」
ベインが叫ぶが、すでにブラインはさわやかな笑顔で書類を受け取っている。
そしてベインにさらに冷たいハピネスの言葉が降りかかる。
「収入がないどころか、赤字になるような子に仕事はあげられないわ。幸せを与える仕事のはずなのに、あなたが担当した人間は不幸になっているのよ」
ベインは社長から目を離して、今度はブラインにすがりついた。
「ブライン~」
半泣き状態のベインをブラインは突き飛ばし、書類を彼から遠ざける。
「悪いけどね、これはあげられないな 」
さわやか笑顔でズバッと告げる。
ベインはまたハピネスを見た。
ハピネスの哀れむような瞳が彼の涙で潤んだ目を冷静に受け止める。
「いい?ベイン。クビにならないで定給料がもらえるだけでもいいと思いなさい。さぁ、出て行って」
この会社は乏しい定給料と仕事の成功報酬制。仕事をこなさなければ家賃は払えない。
ハピネスに促され、ベインはハピネスとブラインを交互に見たあと、社長室からとぼとぼと出て行った。
「社長、何であいつを雇ってんですか?」
ベインの後姿が消えるとブラインがハピネスに問いかけた。
「ん~、最初はね、むかつく人間が対象のときに使おうと思っていたんだけど、思った以上に赤字になってね、でも辞めさせるのも何だかかわいそうで、今は自分から辞めてくれるのを待っているのよ」
ハピネスは深いため息をついて椅子に座りなおした。
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