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すでに三日がたった。
ベインはこの三日間で日払いのバイトをして何枚もの紙を手に入れたが、残念ながらそれは紙幣ではない。その紙切れは紙幣とは近くて遠い存在のもの。
『請求書』
その紙束の一枚一枚にその文字は大きく書かれていた。
ベインがため息混じりに請求書を見ていると、急な突風で舞い上がってしまう。
追いかけたくはないけれど、追いかけなくてはいけなくて、拾いたくはないけれど、拾い集めた。一枚一枚確かめながら拾っていくと、自分の失敗が胸を押しつぶすように思い出されていく。
八百屋の請求書を拾う。こけてつぶしてしまったトマト代だ。
清掃業者の請求書を拾う。窓拭きをしていて割ってしまったガラス代だ。
ふと、自分が着ている破けた服に目がいった。母さんが作ってくれた服だった。バイトの最中に破いてしまったのだ。お金では買えない価値がこの服にはあった。
まぁ、今はそんな服どころではない。
レストランの請求書を拾う。割ってしまったお皿代だ。
そしてもう一枚。
「あれ?」
ベインが手にしたものは請求書ではない。
~~アルバイト募集中~~
真っ赤な文字がその紙の中央にデンッと書かれていた。
ベインの目はその紙に釘付けになり、他の文字を必死な目で見つめる。
~~死神会社で働いてみませんか?短期間で高収入を約束します。連絡先は・・~~
「値段は書いてないのか~」
ベインは顔を紙から遠ざけてつぶやく。
「でも、今はこれしかない。これは神様からのお告げなんだ!」
ベインはまだ散らばっている請求書をかき集めると、紙に書かれた住所を目指して走り出した。
◆
「さぁ、入りなさい」
ベインは秘書らしき人に促され、サササッと死神会社の社長室に入る。窓はあるのに陰気な空気が漂う部屋の豪華な椅子には、男が偉そうに構えている。
ベインはまさかこんなに早く入れると思っていなかったので、どきどき、そわそわしながら男の前に立ち、
「ここ、こここー、こんにちは!」
「君は鶏かい?」
「いえ!ベインと申します!」
男はなんだか見下したような笑みを浮かべる。
「私はアフリマン。君は死神会社の仕事は知っているね?」
「は、はい!知ってます」
ベインは急いで答えるが、
「いや、君は知らない!」
アフリマンは勢いよく立ち上がると叫んだ。
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