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2.救世主現る?
◆
ここは人間界。高校生の真之と晴樹は学校から塾までの近道として公園を横切っている。
そのとき真之は驚くべきものを見つけ、立ち止まる。
「ん?どうしたんだ?」
立ち止まって動こうとしない真之に晴樹がたずねた。
真之は公園の隅を指差す。
そのベンチには真っ黒のスーツを着た、まだ年の若そうな男がしゃがみこんでめそめそ泣いていた。人目も気にせずにガチ泣きしていることにも驚きだが、何よりも目を引いたのは、その若者のスーツに黒い悪魔のような翼と尻尾がつけられていたことだった。
「あいつ、哀れだなー。罰ゲームにしてもひどすぎるだろ」
真之は顔をゆがめながらつぶやく。
「ん?どいつ?」
「ほら、あいつだよ。悪魔の格好した黒スーツの泣いてるやつ」
真之の言葉を聞いても晴樹には見えず、晴樹はすぐに探すのをあきらめた。
「見えねーや。いつものやつなんじゃない?」
真之は少し考えて、周りを見る。そして、人の多い公園で誰も若者のことを気にしていないのを確認する。
「そうみだいだね。んじゃ、塾行こうぜ」
真之はまた歩き始め、晴樹を抜かそうとして襟をつかまれた。
「あっぶねーな」
何とか転ぶのを免れた真之は晴樹を睨むが、晴樹の不満そうなむすっとした顔を見て、顔を地面に向けた。
「そいつ泣いてんなら助けてやれよ。助けられんのお前しかいないんだぞ」
「えー、でも塾が……」
真之の答えに晴樹は大声で笑い出した。真之も自分の言葉のばかばかしさに今にも笑い出してしまいそうなのを必死でこらえる。真之は塾の講義をまじめに聞いていたことなんかない。
「前の席の背後霊と談話してるやつがよく言うぜ」
存分に笑ってから、晴樹は真之の背を押す。
「先生には俺から言っとくから、話しかけてきな」
晴樹の押す力が強すぎて、真之はまたこけそうになった。
「んじゃ、また明日ね~」
晴樹は手をひらひら振って去っていく。
「ったく、俺を手伝うのがお前だろ」
遠ざかって行く晴樹の背中に向けてつぶやき、あまり近づきたくはなかった若者のところに行く。そこでうろうろと散々迷いに迷ってから、ついに声をかけた。
「あの~、お困りですか?」
真之が意を決して声をかけたのに、若者はまったく動かないし、返事もしない。
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