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恐怖と迷いとが交差し混沌とした時間だけが過ぎて行く。
隠れて暮らしていた美咲も戸惑う程の感情が入り乱れた。
考えないようにすれば、する程あの日の事を鮮明に思い出す。
そんな時普段から静かな家が
ざわついた。
誰かが大きな音を立て美咲の部屋に向かってくる。
その音を追うように母親の悲鳴に近い叫び声がする。
『やめて!!』
その叫びと同時に美咲の部屋のドアが激しく叩かれた。
戸惑う美咲。
心臓の鼓動と同じ様に叩かれるドア。
美咲は耳を塞ぐ。
体が震えて仕方ない。
『美咲さん、いるんでしょ!話を聞いて!お願い!!助けて!!手紙読んだでしょ!柏木です。お願い!影踏みの事聞かせて!!!』
突然の柏木の訪問…美咲は意思に反して、いや…何かにつき動かされたように何年も自ら開けた事のないドアに手をかけた。何かが変わる瞬間だった。
震える手をもう片方の手で押さえゆっくりとノブを回した。
ドアが静かに開く…
美咲と柏木は初めて顔を合わせた。
初めて見た柏木は憔悴した顔をしている。
普段はキチンとした人なのだろう。
そんな印象を持てる身なりをしていた。
だから初めてあったのに
その尋常ではない憔悴した顔が印象的に映った。
『…ありがとう』
乱れた髪を直しながら一呼吸ついて柏木はそう言った。
美咲は開いたドアが影を作るので慌ててドアを閉めた。
美咲は覚悟を決めた。
何があるのかわからない。
でも、もぅ疲れた。
同じ疲れるのなら
【鬼】と再び【影踏み】を始めてみようと……
柏木さんなら
信用出来る気がしていた。
確信なんてない。でも……今の美咲に信用出来る人間なんていなかった。
あの日以来、何も信用出来なくなっていたのだから…
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