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「僕、一回だけ、無性にしゃぶしゃぶが食べたくなって自分で作ろうとしたんですけど」
黙って待っているのも居心地悪いような気がして、武市は服部にそのまま話し続ける。
「出汁も入れずに、ただのお湯で作っちゃって。しゃぶしゃぶって、出汁だったんですね、僕、ただのお湯だと思ってたんですよ、自分で作るまでずっと。
そういえば、出汁、取るのにちょっと時間かかりません? あ、でも、しゃぶしゃぶの素とか、出汁の素とか使うのかな」
服部は少し面倒くさそうに武市を一瞥すると、冷蔵庫を開け、麦茶などを入れる樹脂製の容器を取り出して見せてくれた。
中に入っている黄金色の液体が、ちゃぷちゃぷ音を立てて揺れる。
「準備は出来てる」
「……服部先生って、レトルトとか、体に悪いって、食べない方ですか?」
「あ? いや、レトルトも缶詰もふつーに食うぞ? 市販の出汁だって使うしな。今回は、実家から昆布も一緒に送られてきてたし、せっかくの高級肉だし、手間かけてみた」
「はあ」
「ところでおまえ、タレは何派だ? ポン酢、ごま、ゆず、中華」
冷蔵庫の中をチェックしながら服部がタレの種類を上げていく。
それを聞きながら、申し訳なさげに武市は言ってみた。
「あ、ええと、僕、色々楽しみたい派でして……。全部、ってダメですかね?」
服部が若干呆れた目をして、こっちを見る。
「いや、いいけどよ……。全部、って少しずつ全種類か? それとも一気に全種類をミックスか?」
「少しずつ全種類で」
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