3

2/6

2人が本棚に入れています
本棚に追加
/21ページ
 電気コンロに置かれたしゃぶしゃぶ用鍋がぐつぐつと音を立て始める。  服部は手際よく、レタスや豆腐や水菜やねぎを入れていく。熱された野菜の、どことなく甘い香りが部屋に漂い始めた。 「野菜がそれなりに煮えてきたら、勝手にしゃぶしゃぶって食え」  黒豚しゃぶしゃぶ肉の黒トレイにかけられたラップを取り外し鍋の横に置くと、服部は冷蔵庫から冷えた缶ビールを取り出して武市に渡した。 「グラスなしでそのままでもいいか?」 「お構いなく。うわ、美味そうですね」  並べられた肉のほんのりした赤みが、トレイの黒色に引き立てられて美味そうに、かつ高級そうに見えた。 「こう見ると、色合いって大切なんですね~。白色のトレイに入ってたら、スーパーに売ってる肉と見分けつかないかもしれないですよ、僕」 「人間ってのは、偏見と錯覚と思い込みの生き物なんだよ」  武市の向かいに座った服部が口の端を少し歪めて笑うと、プルタブに手をかける。カシュッと音がした。 「あははは、大学時代の彼女が、まさにそんな感じでした」 再び苦い記憶を思い出しながら、武市もプルタブを開ける。白い泡がじわりと這い上がってくる。 「まあ、乾杯」 「はい、乾杯」 ゴン、と缶底を軽くぶつけ合う。
/21ページ

最初のコメントを投稿しよう!

2人が本棚に入れています
本棚に追加