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「陸曹とか、憧れだったけどな。防衛大でも出てなきゃ、陸尉・陸佐なんておれたちには無縁だったし、そん中じゃ陸曹・陸曹長のかっこよさは半端なかったからなあ。  ……中にはアホみたいなのもいたけどよ」 「北野先生は、陸曹でしたっけ?」 「ああ。一等陸曹」 そう言って服部は嬉しそうに笑う。……どうやら、ほろ酔いになってきているようだ。  武市は、服部が酒に強くなかったことを思い出した。本当に見かけによらないらしい。 「東防学院に来るやつは、自衛官の、しかも幹部クラスの子供とか多いだろ?  名取、いるだろ、俺のクラスの。名取トウコ」 「ああ、父親が自衛隊の幹部とかいう」 長い黒髪の、前髪を綺麗に切りそろえた、やたらに姿勢の良い女子だったと武市は記憶していた。成績は実技も一般教科も優秀で、学年代表を任されていたはずだ。 「そう。名取陸将補。陸将補だぜ、陸将補。おれたち下っ端自衛官には無縁の存在だったってのに、その娘を教えてるんだぜ。こんな話、あるかよ」 「……不満なんですか?」 「不満なわけ、あるかよ」 むっとしたように唇を尖らせてから、服部は鍋から取ったばかりの豆腐を口に入れた。そして、舌を火傷したのか、ぺろっと舌先を出して、顔をしかめた。 「くそ、あちぃ。  さすが陸将補の娘だよ、射撃の姿勢も腕も、ほとんど直すところも見当たらない、見事な優等生だよ。  ……おれは、フランス外人部隊に、入りたかったんだよなあ」
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