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 一般的な学校と大きく異なっている点が、国防法の施行により生徒達に自衛法を教える授業があることだ。護身術としての格闘の他に、銃の扱いなどもカリキュラムの中に入っている。  そのため、自衛隊経験者の教官が多い東防学院では、二十代の教員自体が少ない。  かろうじて、その貴重な二十代に含まれている服部だったが、生徒達からの人気は全くなかった。  というのも、服部は、根性論の人間だからだ。  武市が、本当に自分と同世代なのかと首を傾げてしまう程に。  生徒の言動に厳しく口うるさいのはもちろんだったが、年配の教官ですら生徒を注意する時は言葉に気を使うのに、服部は平気で生徒を罵る。  みそっかす、ぐず、のろま、できそこない、バカ、アホ、ガキ……。  親にだってそのような言葉で罵倒されたことのない生徒が多い中、他の生徒の面前で、大人に、しかも教官にそんなふうに叱られるのは、生徒にとって屈辱だろう。何より、多感な思春期の少年少女達なのだ。  だから、服部は人気がなかった。遭遇するなら、服部よりも蛇のほうがマシだと生徒の間で言われるぐらい、人気がなかった。  加えて、大男の部類に入るだろう体格と、睨まれた者が思わずすくんでしまうほどの鋭い眼光が、嫌われ者に拍車をかけていた。  だが、武市の目から見れば、別段恐ろしい人間だとは思わない。  口は悪いが、おそらくそこらの公立中学の教師より教育熱心ではないだろうか。  生徒達にもっと厳しくするべきだと職員会議で発言して、他の教官にたしなめられ、会議の後に三年二組担任の北野教官に愚痴っている姿を、武市はよく見かけた。 「おまえ、肉は好きか?」 服部の突然の質問に、思考が一瞬停止する。 「肉は好きか?」 質問の意図を掴めずにいる間に、服部は更に繰り返した。 「肉は好きか?」 素直に「好きです」と言おうと武市は口を開こうとしたが、それより速く、服部が指で銃の形をつくり、武市を撃つ真似をする。 「バン。  武市教官、被弾」 武市は、むっとしたように唇を少し尖らせてみせた。 「からかわないで下さいよ。肉がどうかしたんですか?」 「実家から肉が届いたんだよ。おれ一人じゃとても食えねぇし」
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