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「ああ、そういうことですか」 そういうことならもっと分かりやすく言えばいいのに、と心の中で思いながら、武市は軽く笑って答えた。 「好きなのでお邪魔しようかな。何の肉ですか? 牛?」 「豚。黒豚。鹿児島の」 「へえ。すごいじゃないですか。服部先生、ひょっとしてお坊ちゃんだったりしますか?」 「あぁ? 俺のどこが坊ちゃんに見えるってんだ?」 「言ってみただけですよ」  武市と話しながら、服部は鞄にノートやらプリントやらを素早く丁寧に詰め込んでいく。  その様子を見ながら、武市は、服部が割合大柄な外見からは想像つかないほど几帳面なことを思い出した。机の中もきっちり整理整頓されていたし、ファイルもしっかり項目ごとに分かれて、インデックスを付けられ、一目で分かるようになっている。  まあ、それは社会人なら当然のことで、武市がずさんな部類に入るだけだったのかもしれないが。 「そういえば服部先生、生徒達に噂されてますよ。山の麓でわびしく暮らしてるって」 「どこのどいつだ、そんな噂流してんのは」 服部は鞄を閉じて呆れた顔で言う。そんな表情をしているものの、さほど気にはしていないようだった。 「まあ、だいたい察しはつくけどな」 「僕が修正しておきましょうか? 服部先生は、わびしく暮らしているんじゃなくて、独身貴族を満喫してるんだって」 「いいんだよ、俺はわびしく山の麓で霞でも食って仙人にでもなるから――というより、同じ独身貴族を満喫してるなら、お前もだろうが。去年、バレンタインデーにチョコレートもらってただろう、生徒から」 「ただの義理ですよ。教師なんて、生徒から煙たがられるだけの存在ですから」 笑う武市に、服部は少し不満そうな顔をする。目が細まって、唇が少し前に突き出た。 「どうだかな。わからないもんだぞ、特に女子は。俺には鬼門だ」
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